民法と相続③:相続欠格
今回は「相続欠格」のについて民法の条文を確認していきます。
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相続人の欠格事由
相続人は民法に規定する欠格事由に該当すると、相続人となることができなくなります。
次に掲げる者は、相続人となることができない。
民法第891条柱書
まずは欠格事由を2つに分けて確認していきましょう。
殺害行為等に係る事由
相続人の欠格事由を列挙している民法第891条のうち、第1号と第2号は、殺害行為などに関与した者について規定しています。
欠格事由①:殺害行為等の刑に処せられた者
故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
民法第891条第1号
被相続人等を殺害し刑に処せられた者は相続人となることができません。
被相続人等が結果的に死亡していなくとも、故意に殺害行為に及びその行為について刑に処せられた者も同様です。
「被相続人等」には被相続人の他、先順位相続人(例:被相続人の弟(第3順位)にとっての被相続人の子(第1順位))や、同順位相続人(例:配偶者と血族相続人(子、父母、兄弟姉妹))が含まれます。
欠格事由②:告発、告訴しなかった者(例外あり)
被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。
民法第891条第2号本文
自らは被相続人に対する殺害行為に関与していなくとも、これを知っていながら告発・告訴をしなかった者も同様に扱われ、相続人となることができません。
ただし、この規定には以下の例外があります。
ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
民法第891条第2号ただし書
すなわち、善悪の判断ができない者(14歳未満の年少者など)や、殺害者の配偶者・直系血族の親族はたとえ告発や告訴をしなかったとしても欠格事由には該当せず、相続人となることができるということです。
ポイント①(殺害行為等に係る欠格事由)
<殺害行為等>
被相続人等を殺害した、もしくは殺害しようとしたために刑に処せられた者
- 「被相続人等」:被相続人、先順位相続人、同順位相続人
<告訴、告発>
被相続人が殺害されたことを知っていながら告発・告訴しなかった者
- 是非の弁別がない者、殺害者の配偶者または直系血族の親族は含まれない
遺言に係る事由
民法第891条に列挙されている欠格事由の残り3つ(第3号から第5号まで)は遺言の作成等行為に関連しています。
欠格事由③:被相続人の意思表示を妨害した者
詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
民法第891条第3号
詐欺または強迫により、被相続人の遺言作成等に係る意思表示を妨害した者は相続人となることができません。
具体的には、詐欺または強迫によって、遺言の作成、遺言の撤回、遺言の取り消し、もしくは遺言内容の変更を妨害した者がこの事由に該当します。
欠格事由④:被相続人に意思表示を強制させた者
詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
民法第891条第4号
被相続人に無理やり(詐欺や強迫によって)遺言作成等に係る意思表示をさせた者も同様に相続欠格に該当します。
遺言の作成、撤回、取り消し、変更の強制が当てはまります。
欠格事由⑤:遺言書を偽造・変造等した者
相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
民法第891条第5号
被相続人の遺言について、偽りの遺言書を作成した者も相続人となることができなくなります。
遺言は本人のみができる行為なので当然ともいえます。
加えて、遺言書を変造した者、破棄した者、隠した者も相続欠格事由に該当します。
ポイント②(遺言に係る欠格事由)
<被相続人の意思表示の妨害>
詐欺または強迫により被相続人の遺言に係る意思表示を妨害した者
- 「遺言に係る意思表示」:遺言の作成、撤回、取り消し、変更
<被相続人の意思表示の強制>
詐欺または強迫により被相続人に遺言に係る意思表示を強制させた者
<遺言書の偽造・変造等>
被相続人の遺言書を偽造・変造、破棄、隠匿した者
相続欠格についての主な留意点
ここでは相続欠格についての留意点を2つ挙げておきます。
受遺者としての地位の喪失
(前略)第891条の規定は、受遺者について準用する。
民法第965条(一部省略)
第891条の規定、すなわち相続人の欠格事由の規定が受遺者についても準用されています。
この意味は、上述した欠格事由に該当する場合はその者は遺贈を受ける者(受遺者)となることもできないということです。
相続欠格と代襲相続との関係
相続欠格と代襲相続との関係については民法第887条および第889条に規定があります。
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。
民法第887条第2項本文
「民法と相続①:代襲相続」の記事において解説した通り、相続欠格(上記条文中「第891条の規定」)と廃除は、代襲原因となるか否かを考える際には相続人の死亡と同視されます。
そのため、相続欠格者の子も代襲相続人となります。
【代襲相続についての記事はこちら】
【推定相続人の廃除についての記事はこちら】
ポイント③(相続人欠格についての主な留意点)
<受遺者>
相続人の欠格事由の規定は受遺者について準用される
- 欠格事由に該当する者は受遺者となることができない
<代襲相続>
相続欠格は代襲原因の一つ
- 例)相続欠格者の子が代襲相続人となる
まとめ
今回は「相続欠格」について民法の規定を確認しました。
- 殺害行為等に係る欠格事由
- 遺言に係る欠格事由
- 受遺者も欠格事由あり
- 相続欠格は代襲原因の一つ
相続欠格については、民法に明確な規定があるものの例外など注意を要する点もあります。