遺言書が身近なものでないワケ
前回は遺言書作成のメリットを紹介しましたが、今回はメリットがあるにもかかわらずなぜ遺言書があまり作成されていないのかに焦点を当てます。
そして遺言書作成の問題点と併せてその解決策も提示していきます。
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必要性を感じない⇒本当は認識不足?
遺言書を作成しない理由の多くはその必要性を感じないという点に起因します。
「財産額が多くない」とか「争いになるような家族関係ではない」というお話もよく伺います。
自分のケースでは遺言書は必要ない
遺言書を作成するメリットに円満な相続を促進するという点があることは前回の記事で紹介しましたが、
「遺言書を書いて分割するほどの大層な財産はうちにはない」
「家族全員仲良くやっているから”争族”になる心配はない」
というご家族も多いです。
相続が開始されたときに話し合いで、もしくは「あうんの呼吸」でさらっと解決するのであればわざわざ遺言書をしたためる必要性は感じにくいでしょう。
実態を認識することが大切
問題は、必要性を感じないという認識が本当に正しいかどうかです。
その正否を確認するためには相続事件の実態すなわち相続がもめるケースの現実を知ることが必要になります。
前記事でも少し解説しましたが重要な点を挙げると、①相続財産5,000万円以下のケースが”事件”総数の7割以上を占める、②家族構成はライフイベントともに変化する、の2点があります。
つまり財産額が多いからもめるのではなく、また結婚・出産などで利害関係者は変化するということです。
遺言書は「絶対に必要ない」と言い切れるケースは実際のところあまり多くない
費用・時間がかかる⇒真のコストとは何か?
単純に遺言書作成が面倒で手間・お金がかかるという点も敬遠される理由の一つです。
遺言作成に費用と時間がかかることは事実であり、費用対効果を見極めて判断する方が多いのでしょう。
タダでは書けないし、時間もかかる
費用については「自筆証書遺言」という形をとれば最小コストで作成することができます。
しかし遺言として有効であるためには定められた様式で書く必要があり(←手間がかかる)、さらに用紙や筆記具などの規定は特にありませんがさすがにペラペラの紙に書くよりもしっかりとした用紙を準備して、保管用の封筒や桐箱も購入して、となるものです(←お金がかかる)。
より確実性のある遺言書を作成する方法として「公正証書遺言」を選択した場合には別途公証人手数料なども必要になります。
また行政書士等の専門家にサポートを依頼すればその分コストが上乗せされます。
想定外のリスクも考慮に入れる
費用対効果で遺言書を作成するか否かを判断する場合は想定外のリスクすなわち万が一相続がもめてしまった場合のコストを考慮に入れるべきです。
確かに遺言作成にはお金も時間もかかりますが、その手間暇を惜しんだことによって遺産分割でごたつき、余計にコストや手間がかかってしまっては元も子もありません。
遺言書が予防法務つまり「事が起こる前に法的な対応をとっておく」方法の一種といわれるゆえんです。
遺言作成の費用対効果の算定には想定外のリスクも考慮に入れるべき
縁起が悪い⇒遺言書は遺書ではない!
最後にもう一つ、個人的な見解も含みますが、遺言書を作成しない理由の中には感情的な部分もあるのではないかと思います。
「遺言書を書くということは死を連想させるので縁起が悪い」というものです。
自分の死を想像したくない
遺言書に書いた内容は遺言者が亡くなった時に効力を発生するので、遺言書に盛り込む内容を考える作業は自身の死や死後のことを考えることと切り離せません。
わざわざ自分の死を連想させるような行為をしたくないのは当然の感情です。
遺言作成をやめてしまった方の中には途中で気持ちが滅入ってしまったケースも少なくないようです。
「遺言書」と「遺書」の違いを知る
筆者はこの問題に対しては遺言書と遺書の違いを知るという解決策を提案しています。
「遺書」は遺言書と混同されがちですが辞書などを調べて定義や用例を考察していると「死の直前に」というニュアンスが強いように感じます。
つまり前もってじっくり考える時間をとり家族やお世話になった方々への想いを込めたメッセージを書いたもの(←遺言書)というよりは、死を目前にこれだけは伝えておきたいという事柄を走り書きしたようなイメージです。
ここで遺言書と遺書に優劣をつけたり殊更に違いを明確にしたいわけではありませんが、「遺書」という言葉からにじみ出る「死」のイメージがそのまま遺言書に転用されているのではないかという点、そして遺言書には人生をより豊かにするという意義がある点を強調しておきたいのです。
遺言書は死や死後を考えることで人生をより豊かにするもの
まとめ
今回は遺言書が身近なものでなく敬遠されることも間々ある理由を考えました。
その中でも、
- 必要性を感じない
- お金と時間がかかる
- 縁起が悪い
は3トップである気がします。
そしてそれらに対応する考え方として、
- 相続の実態を認識する
- 想定外のリスクも考慮する
- 遺言書は遺書ではない
という3点を紹介しました。
とはいえ遺言を作成するかどうかは全くもって個人の自由です。
最終的にはご自身の意思を尊重してくださいね。