「法的拘束力」を持つ遺言事項

前々回付言事項について紹介しましたが、今回は法的拘束力を持つ「遺言事項の概要を確認していきましょう。

ここでは遺言事項を「民法に定められている事項」「遺言によってできると解釈されている事項」「民法以外の法律で定められている事項」の3つに分けて紹介していきます。

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民法に定められている事項

民法により定められている遺言事項には、相続分に関するもの、財産処分に関するもの、家族関係に関するものなどがあります。

相続分に関する事項

遺言で相続分を指定したり遺産分割の方法を指定することは民法により認められているので、これらの記載は法的拘束力を持つことになります。

相続分に関する遺言事項

相続分の指定

例)「遺言者は、妻〇〇の相続分を4分の3、長男〇〇の相続分を4分の1と指定する。」

遺産分割の指定

例)「遺言者は、夫〇〇に不動産を相続させる。その他一切の財産は長女〇〇に相続させる。」

  • 財産ごとの指定が可能

推定相続人の廃除

例)「遺言者は、二男〇〇を相続人から排除する。」

  • 相続させたくない推定相続人に相続させないための手続き

<その他>

遺産分割の禁止

  • 最大5年間、遺産分割を禁止することができる

・遺産分割の際の担保責任に関する別段の定め

  • 原則(相続分に応じた担保責任)と異なる意思を表示できる

推定相続人の廃除の取消し

  • 生前に行った相続人の廃除を取り消す意思表示

財産処分に関する事項

遺言による財産の贈与を「遺贈といいます。

相続による財産の承継は相続人に限られますが、遺贈を行うと相続人以外にも財産を承継させることができます。

民法は遺贈に関する事項についても規定しています。

財産処分に関する遺言事項

遺贈

例)「遺言者は、一切の財産を、〇〇に遺贈する。」

  • 包括遺贈(財産を「包括的に」遺贈)のケース

例)「遺言者は、遺言者の有する下記不動産を、〇〇に遺贈する。」

  • 特定遺贈(財産を「特定して」遺贈)のケース

<以下の事項についての別段の定め

遺言者が異なる意思表示をしたときは原則ではなく遺言の内容を優先する

・受遺者の相続人による遺贈の承認・放棄

  • 原則:受遺者の相続人は遺贈の承認・放棄が可能

・遺言の効力発生前の受遺者の死亡

  • 原則:遺贈の効力は生じない

・受遺者の果実取得権

  • 原則:遺贈の履行を請求できる時から果実を取得

・遺贈の無効または失効の場合における目的財産の帰属

  • 原則:目的財産は相続人のみに帰属

相続財産に属しない権利の遺贈における遺贈義務者の責任

  • 原則:移転ができないときや過分の費用を要するときは価額を弁償する

・受遺者の負担付遺贈の放棄

  • 原則:受益者が受遺者となることができる

・負担付遺贈の受遺者の免責

  • 原則:財産の減少の割合に応じて、負担した義務を免れる

家族関係に関する事項

遺言による子の認知未成年後見人の指定など、身分に関する遺言事項も民法に規定されています。

家族関係に関する遺言事項

遺言認知

例)「遺言者は、(住所(本籍))〇〇(生年月日)を認知する。」

  • 遺言による認知は、胎児や死亡した子に対しても可能

未成年後見人、未成年後見監督人の指定

例)「遺言者は、未成年者である長男〇〇(生年月日)の未成年後見人として、次の者を指定する。」

  • 最後に親権を行う者が指定することができる

その他の事項

遺言執行者、遺言の撤回、遺留分に関する遺言事項についても民法に規定されています。

その他の遺言事項

遺言執行者の指定

例)「遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長男〇〇を指定する。」

  • 遺言執行者には相続人を指定することも可能

遺言執行者に関する以下の事項についての別段の定め

遺言者が異なる意思表示をしたときは原則ではなく遺言の内容を優先する

特定財産に関する遺言の執行

  • 原則:特定財産のみに限定して執行業務を行う

・遺言執行者の復任権

  • 原則:遺言執行者は自己の責任で第三者に任務を行わせることができる

共同遺言執行者

  • 原則:遺言執行者が複数の場合の任務の執行は過半数で決する

・遺言執行者の報酬

  • 原則:家庭裁判所が定める

遺言の撤回

例)「遺言者は、〇年〇月〇日付で作成した自筆証書遺言を全部撤回する。」

  • 遺言者は、遺言の方式に従っていつでも遺言の全部または一部を撤回することができる

<遺留分侵害額請求の目的物の負担額に関する別段の定め

例)「遺留分侵害額請求があったときは、まず現預金、次に株式から負担するものとする。」

遺言によってできると解釈されている事項

民法に明確な規定はないものの、遺言によってできると解釈されている事項もあります。

これらも遺言に記載することにより相続開始時に法的拘束力を持つとされます。

遺言によってできると解釈されている事項

祭祀主宰者の指定

例)「遺言者は、遺言者および祖先の祭祀を主宰すべき者として長男〇〇を指定する。」

  • 被相続人の指定がない場合は慣習により、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定める

特別受益の持戻しの免除

例)「共同相続人の相続分を算定する場合、遺言者が〇年〇月、長男〇〇の生活のために贈与した金〇万円の持戻しを免除する。」

  • 原則:特別受益の持戻しを行う

民法以外の法律で定められている事項

遺言事項を定めている法律は民法だけでなく、以下の3つの法律においても遺言に関する規定が確認できます。

民法以外の法律で定められている事項

一般財団法人の設立>【一般社団法人及び一般財団法人に関する法律】

例)「遺言者は、本遺言をもって一般財団法人設立の意思を表示するとともに、次の通り定款の内容を定めるものとする。

  • 定款の作成が必要

信託の設定>【信託法】

例)「遺言者は、以下の通り信託を設定する。」

  • 残された家族の生活資金の給付、奨学金支給等に利用される

保険金受取人の変更>【保険法】

例)「遺言者は、(中略)長男〇〇を受取人に変更する。」

  • 平成22年4月1日前に締結しているものについては適用外

まとめ

今回は遺言事項を列挙しました。

民法に規定のある遺言事項としては、

  • 相続分に関する事項
  • 財産処分に関する事項
  • 家族関係に関する事項
  • その他、遺言執行者などに関する事項

があり、また明文の規定はないものの、

についても遺言によってできる事項と解釈されています。

さらに民法以外の法律で定められているものとして、

  • 一般財団法人の設立
  • 信託の設定
  • 保険金受取人の変更

も遺言に記載することで法的拘束力を持つとされます。

遺言作成の際には遺言事項と付言事項を明確に区別し、法的効力を持ちつつ遺言者の意思を最大限に表示できる記載を目指しましょう。